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中学校外国語新学習指導要領を読み解く観点②：CAN-DOCAN-DOリストによる目標と評価 —授業改善のために 文教大学国際学部国際理解学科教授，同大学院国際学研究科教授阿野 幸一 阿野 幸一（あの こういち）先生 文教大学国際学部国際理解学科教授，同大学院国際学研究科教授。埼玉県立高等学校，同中学校，茨城大学を経て現職。NHK ラジオ講座『基礎英語 3』講師（2008 〜 2012 年度），同『基礎英語 2』講師（2013 〜 2015 年度）。2017 年度より NHK テレビ高校講座『コミュニケーション英語Ⅰ』監修・出演 新学習指導要領を受けて 　今回の学習指導要領の改訂において，その枠組みの改善として示された 6 点の中に，「何ができるようになるか」（育成を目指す資質・能力），「何が身に付いたか」（学習評価の充実）があげられています。そして，5 領域ごとに示された目標は，全て「〜できるようにする」と記述されています。英語を用いて何かが「できるようになる」ことを目指して学習し，その結果「どのくらいできるようになったか」を評価する。これが指導と評価の一体化を目指した CAN-DO に基づく英語の指導です。なぜ英語の授業改善に CAN-DO リストが欠かせないのかを改めて考えてみましょう。 　生徒は英語という言葉の学習にどのような憧れを抱いているでしょうか。「英語が話せたらかっこいい」という漠然としたものから，「英語ができるようになって世界各地を旅行して外国人の友達を作りたい」，「好きな洋画を字幕なしで見たい」という具体的なものまであるでしょう。そして英語を学習した生徒が，「海外に友達ができて今でも英語でやり取りを続けている」，「洋画を英語で理解できた」という経験をしたときに達成感を感じることと思います。ここでは，「英語を通してできること」を目標として持ち，「できること」によって自己評価がなされています。 　生徒の学習意欲を高めるため，そして本来の言葉の学習の目的を考えた際に，「生徒が英語でできるようになること」を教員と生徒が共有し，ともに英語の学習を進めていくための指針を持つためにも，CAN-DO リストは非常に有効なものなのです。 毎日の授業とCAN-DOリスト 　学校ごとに CAN-DO リストを作成して活用することが求められています。ここ数年，全国各地の先生方とお話をしていると，「CAN-DO リストを作成はしたが活用はできていない」という声をよく耳にします。リストを作って提出するだけでは意味がありません。CAN-DOリストに示される目標は，3 年間を見通した目標や学年ごとに目指す目標です。しかし，この長期的な目標を達成するためには，毎日の授業の積み重ねが欠かせないことは言うまでもありません。言いかえれば，毎日の授業はどの目標を達成するために行っているのかを明確にすることが必要です。つまり，毎日の授業を点として捉えるのではなく線としてつなぎ，その線の先にあるゴールを示すのが CAN-DO リストに記述されている目標と考えることができます。 CAN-DO リストと毎日の授業の関係 　CAN-DO リストと教科書の扱いの関係も大切なポイントです。教科書を時間軸で扱っていけば，中学生の英語学習に必要な知識（文法や語彙）をカバーすることはできます。しかし，そうした知識を何のために覚えるのかを生徒に意識させた指導をしなければ，英語をコミュニケーションの手段として身に付けることはできません。サッカーのルールを覚え，パスやシュートの仕方の講義は受けているけれど，実際にサッカーをプレーしていないのと同じことになってしまいます。これではサッカーに対する意欲がわかないばかりでなく，絶対にサッカーができるようにはなりません。 　もちろん，毎日の授業で扱う教科書の指導内容が全てCAN-DO リストに示された目標と直接的につながっているとは限りません。しかし，CAN-DO リストの複数の目標を達成するために，それぞれの単元を指導する際にどこに重点を置くべきかを考えられるようになり，教科書の紙面に沿って順番に解説していくような指導はなくなります。そして，単元末や複数単元を学習したあとにどのような言語活動を設定したらよいかを，技能のバランスとともに考えることもできます。 CAN-DO リストの記述は具体的に 　先生方が作られた CAN-DO リストを拝見していて，抽象的な記述が多く見られる場合があります。生徒にどのような力を付けさせたいか，そのためにはどのような言語活動が必要かを考えるためにも，生徒がイメージできる具体的な目標設定をすることが大切です。新学習指導要領の「言語活動に関する事項」には，どのような場面での言語活動を取り上げ，どのような内容を扱い，どのような方法で言語活動を行うかのヒントが示されています。例えば，「店や公共機関などで用いられる簡単なアナウンス」，「広告やパンフレット，予定表，手紙，電子メール，短い文章」，「趣味や好き嫌いなど，自分に関する基本的な情報」という使用場面や題材，そして「自分が必要とする情報を聞き［読み］取る活動」，「英語で説明する活動」，「賛否や自分の考えを述べる活動」，「自分で作成したメモなどを活用しながら相手と口頭で伝え合う活動」など，活動の方法も示されています。こうした表現を参考にして，目の前の生徒に付けさせたい力を記述していくとよいでしょう。新学習指導要領に沿って作成される教科書は，こうした活動を網羅するはずなので，教科書のどの部分を活用すればそうした力を付けることができるかの指導計画も作成しやすくなります。 全ての生徒を対象としたリストを 　学校の授業はクラス単位で行われているため，どのレベルの生徒に合わせて CAN-DO リストを作成したらよいかというご質問を受けることがあります。答えは，「全ての生徒に求められる力を達成するためのもの」になります。例えば，「身近で関心のある事柄について，自分の考えをまとめて即興で話すことができる」という目標を立てたとします。この目標に向かって必要な言語材料を与えながら，様々な言語活動を通して練習をしていきます。ある生徒は，自分が好きなことを何とか1文で伝えるのが精一杯かもしれませんが，一言も言えなかった生徒が好きなことを伝えられたら，目標に一歩近づいたことになります。教師が指導目標とするレベルの 20％程度の達成度かもしれませんが，10％のレベルだった生徒が 20％になれば，この生徒にとっては大きな進歩です。これに対して，すでにある程度のまとまりのある英語を話すことができる生徒もクラスにはいます。この生徒には，好きな理由なども加えながら，相手に伝わるように工夫をして話をするように指導をします。つまり，すでに 100％のレベルにある生徒であれば，120％にまで力を伸ばすことになります。教師が知識を与えるだけではこのような授業は難しいかもしれませんが，目標に向かって生徒が主体的に練習や活動を通して学んでいく授業では，できることを増やしたり，できる精度を上げていったりすることが可能です。技能教科の1つである英語の学習だからこそできることです。 授業改善への取り組みは学校全体で 　CAN-DO リストによる授業改善は，英語科の教員が協力し合い，同じゴールに向かって指導に当たることに大きなメリットがあります。先ほど例にあげた「身近で関心のある事柄について，自分の考えをまとめて即興で話すことができる」という目標を共有すれば，どのクラスでも話す練習に取り組むことになり，評価においても即興で話すスピーチなどのパフォーマンステストの実施が不可欠になります。 　しかし，同じゴールに向かうことは，全ての英語科教員が指導方法を統一するということではありません。それぞれの教員には，ゆるぎない指導理念や経験に培われた指導方法があります。それぞれが指導に工夫をして同じ目標に向かうことは，ちょうど目的地まで向かう際に検索する乗換案内にも似ています。目的地（ゴール）は同じでも，目的地に向かう経路の選択はそれぞれだからです。 CAN-DOに至る指導のイメージ 　どの経路を選ぶかは，到着までの時間や乗換回数，運賃など複数の要素を加味して検討して決めるでしょう。英語の指導でも，それぞれの教員の指導の工夫の成果を共有することが，学校全体でよりよい指導へと向かう大きな検討材料となります。 　生徒の学習意欲を高め，英語の力を伸ばすために，CAN-DO リストを活用してみませんか。 ※この原稿は東書教育シリーズ『中学校外国語新学習指導要領を読み解く―6つの観点で考えるこれからの学び―』（東京書籍，2017）に掲載されたものです。 関連リンク 中学校外国語新学習指導要領を読み解く 【総論】新しい学習指導要領のねらい 【観点①：英語で授業】「やり取り」と「英語で授業」で深い学びを実現 【観点②：CAN-DO】CAN-DOリストによる目標と評価 —授業改善のために 【観点③：小中連携】目標の一貫性，指導内容の系統性，指導法の継続 【観点④：文，文構造及び文法事項】コミュニケーションにおける活用のための文法指導 【観点⑤：語彙】新学習指導要領における語彙指導の考え方 【観点⑥：デジタル】新教育課程下におけるデジタル教科書の位置付けと活用 【東書Ｅネット】中学校英語・中学校外国語　新学習指導要領を読み解く－ 6 つの観点で考えるこれからの学び－